投資対象になる資産は事業活動が創造する現金の流出経路だ

投資対象になる資産は事業活動が創造する現金の流出経路だ

森本紀行
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<毎週木曜日 11:30更新>

投資対象としての資産は現金を創造するものですが、その現金は、源泉である企業の事業活動から、流出してくるわけで、投資の本質を把握するには、源泉に遡行すればいいのです。
 
 資産という用語は多義に使われますが、資産運用、あるいは投資の世界では、自明のことながら、資産は投資対象になり得るものと狭く定義されます。更に、投資対象になり得るのは現金を創造するものだけですから、資産は現金を創造するものと定義されます。もう一歩を進めると、現金を創造できるのは事業活動だけですから、資産とは、事業活動が創造する現金について、その分配を受ける権利、あるいは方法と定義されるわけです。
 
なぜ不動産が投資対象としての資産になり得るのでしょうか。
 
 企業は、事業活動の主体として、事務所や物流施設などの様々な不動産を賃借して使用しています。こうした賃貸に供されている不動産は、賃料という現金を創造するので、投資対象としての資産になるのですが、企業は、事業活動によって現金を創造し、そこから賃料を支払っているのですから、企業に賃貸されている不動産を保有することは、企業が事業活動によって創造する現金へ参画する方法の一つなのです。
 
では、装置や機材等の動産も投資対象としての資産になり得るでしょうか。
 
 リース事業においては、企業に装置や機材等の動産が賃貸されていて、それらの動産は賃料という現金を創造しているのですから、理論的には、投資対象としての資産になります。実際には、賃貸用の動産を投資対象に構成することについては、多くの技術的な問題がありますが、検討の方向性としては、三つがあり得るでしょう。
 第一は、リース事業を媒介にして、リース会社の資金調達手段を投資対象にすることです。最も簡単なのは、リース会社の発行する株式に投資することですが、リース債権を担保にした社債への投資もあり得るでしょうし、リース資産をリース会社から取得して、リース会社に賃貸することもできるでしょう。
 第二は、不動産を投資対象にするのと同じ方法で、動産を投資対象にすることです。既に、この方法で、太陽光発電装置が投資対象化されていて、今後、対象資産の拡大が課題になっていくでしょう。第三は、動産を不動産に結合させることで、不動産と同じように投資対象にすることです。例えば、データセンターを投資対象にするのならば、この方向で検討されるほかないでしょう。
 
企業は事業用の資産を購入することもできますね。
 
 企業は、資金を借り入れて、事業活動に必要な不動産等の資産を購入していますが、これらの企業が保有する資産は、投資対象としての狭義の資産ではなく、一般的な意味での広義の資産です。しかし、他方で、企業は、事業活動で得た現金から金利、即ち、資金の使用料を支払うのですから、企業に対する金融債権、逆に企業の立場からいえば金融債務、即ち、融資や社債は、金利という現金を創造するものとして、あるいは、別の表現にすれば、金利を受け取る権利として、投資対象としての資産になるわけです。
 
株式は、企業が創造する利益を受け取る権利だから、投資対象としての資産なのでしょうか。
 
 事業活動、即ち、企業の現金創造には、大きな不確実性を伴います。不確実性とは、事業活動は、状況によっては、事前の想定に反して、大きな現金を創造することがあり、逆に、現金を企業の外へ流出させることもあって、決して想定通りには現金を創造し得ないということです。故に、不確実性、より具体的には、一時的な損失を吸収する仕組みが必要になるのであって、その仕組みが資本なのであり、資本の調達のために発行されるものが株式なのです。
 資本は、事業活動における損失発生の可能性に対して、保険を提供するものですから、そこに理論的な保険料を発生させるわけで、それが長期的には現金化してきて、株式に帰属する利益になるのです。ここで、利益とは、企業の創造する現金から金利費用を控除したものであり、長期的とは、利益は、短期的には、負の値に転落する可能性を伴って大きく変動しても、長期的には、資本コスト、即ち、保険料の理論値に収斂していくという意味です。つまり、株式が投資対象となるのは、長期的に、利益、即ち、資本コストに相当する現金を創造するからなのです。
 
企業の成長とは、利益の成長のことでしょうか。
 
 利益には不確実性が伴うのですが、不確実性は、負の側面からは、損失の可能性ですが、正の側面からは、利益が資本コストを超えて増加していく可能性、即ち、成長余力です。企業は、当然のことながら、資本コストに見合う利益をあげるべき責務を負います。そして、通説では、利益の成長にも責任を負うとしていますが、そこには疑義があります。なぜなら、利益の安定性と成長性との間には、理論的に相反関係があって、どちらを重視するかは投資家の選好の問題だからです。
 
不動産も成長するでしょうか。
 
 資産の価値とは、資産が将来において創造する現金の現在価値です。株式の価値は、企業が創造する将来の利益の現在価値ですから、利益の成長に伴って、成長していきます。理論的には、価格は価値の周辺で形成されますから、株式の価値が上昇すれば、その価格、即ち、株価も連動して上昇するはずです。故に、株価の上昇を期待する投資家は、企業は利益の成長に責任を負うと主張するのです。
 不動産の価値は、将来において創造される賃料の現在価値ですが、不動産には耐用年数があるのですから、それが尽きるときに、価値も消滅します。つまり、不動産の価値は、時間の経過とともに現金化していくことで逓減していき、最後には消滅するのであって、成長することはあり得ないのです。このことは、融資や社債においては、事前に金利が約定されているので、価値の上昇はなく、期日が到来するときに、価値が消滅するのと同じです。
 
地価の上昇があれば、それに伴って、不動産の価値も上昇するのではありませんか。
 
 資産の価値は、地価や物価の変動があれば、それに応じて変動するでしょうが、こうした外在的要因による名目的変動は、価値の成長とは異なります。成長とは、資産に内在する要因によって、実質的に価値が上昇することですから、成長し得る資産は、基本的には、株式だけです。逆に、株式は価値の成長を体現するように設計された特殊な資産なのであり、株式、即ち資本の価値の成長と、経済の成長とを表裏一体に統合した経済体制こそ、資本主義の本質なのです。
 
地価や物価の変動は、購買力の保存という投資目的からは、非常に重要な要素ではないでしょうか。
 
 金融機能の本質は時間の調整なのであって、資金を借り入れるのは、将来の消費を現在に前倒すためであり、資金の投資、あるいは運用は、現在の消費を将来に繰り延べることです。故に、投資の目的は、第一義的には、購買力の保存になります。そこで、投資の技術として、投資対象を適切に選択して組み合わせて、保有資産全体の価値を物価や地価の変動に連動させることが重要になるわけです。
 
保存を超えて、購買力を拡大させることは、投資の目的になるでしょうか。
 
 投資の目的は、第二義的には、購買力の拡大ですが、購買力の保存が先決課題であって、その拡大は余力をもって実現されるべきことです。購買力の拡大とは、保有資産全体の価値について、物価や地価の変動による名目的な変化を超えて、実質的に増大させることですから、それを実現できるのは、基本的には、株式だけです。なぜなら、株式の価値は、利益の成長を通じて、名目的な価格変動を超えて、実質的に増加し得るからです。
 しかし、株式価値の成長には、不確実性のもとでの株価の大きな振幅を伴うわけで、購買力の拡大を追求するために、株式の組み入れ比率を大きくすれば、株価の下落によって、購買力の毀損を招く事態に陥る可能性もあるわけです。そこで、時間の長さが重要な意味をもつのです。なぜなら、株式の価格は、短期的には、大きく変動しても、株式の価値は、長期的には、資本コストに見合うように上昇し、更には、それを超えて成長していくと期待されるからです。
 ≪ 関連する論考をご紹介いたします ≫
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日本における太陽光発電設備を含むインフラ資産への投資手法およびその課題について述べています。
(文責:ティ)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。